未来の交通手段がここにあります。
詳細現代の驚異である飛行に関しては、物理学にスポットライトが当たりがちです。それでも、航空機の複合シェルや、最新の映画を乗客に届けるためのデジタル回路など、基盤技術の多くを実現しているのは化学です。
休暇の楽しみは、化学なしには成立しません。例えば、Krytox™(クライトックス™)のような潤滑剤は、スキューバタンクが深海の過酷な条件に耐えることを可能にし、高性能な自転車の潤滑剤として機能し、ウェーブメーカー(波のプールで人工的にうねりを発生させる機械)が駆動できるようにするなど、様々な役割を果たしています。
しかし、様々な地形の上を何千キロにもわたって運んでくれる壮大な機械、すなわち飛行機がなければ、旅行者がこうした楽しみまでたどり着くことはできないでしょう。広い空の下では、化学の素晴らしい力が最大限に発揮されます。
科学の進歩により、航空宇宙産業では、かつて想像もできなかったことが日常の現実になっています。すなわち、何百万人もの乗客が、極めて過酷な条件下で、地上約1万メートルを安全かつ快適に移動しています。そして現在、化学は空の旅にさらなる燃費の向上、さらなる安全性、さらなる快適性をもたらしています。
性能や燃費の向上を目的とした軽量化は自動車産業では比較的新しい試みですが、航空産業では、ライト兄弟の時代から飛行機の軽量化に注目が集まっていました。そして今、航空メーカーは科学の力を借りて、軽量化で新たな一歩を踏み出しつつあります。2011年に就航したボーイング787ドリームライナーは、先代のボーイング767に比べて燃料を20%〜25%削減1するよう設計されました。つまり、2018年までに推定816万トンの燃料を節約したことになります。2では、同じような大きさの航空機がどのようにしてそれほど効率を高めることができたのでしょうか。
その大きな要因は、新しいシェル素材にあります。最新の複合材、セラミックス、広範な炭素繊維強化材がフレームの50%を占めている787ドリームライナーは、同等のアルミニウム製航空機よりも軽量で耐久性があり3、より腐食しにくくなっています4。
「この設計で、航空会社は費用に見合う価値を得ています」と、Chemours(ケマーズ)アプリケーション開発グループのテクニカルサービスエンジニア、Steve Johnstonは語ります。「小型・軽量化することで、性能が高くなります。また、新素材はメンテナンス頻度が少なくて済みます。そのため、航空機の稼働時間が長くなり、経営者の利益につながり、全体的なコストを削減できます。その恩恵は直接乗客にもたらされます」
このすべてを可能にする複合ボディパネルには、もちろん、化学の伝統が受け継がれています。「その複合材料はかなりの高温で作られています」と、Chemours(ケマーズ)のシニアテクノロジーコンサルタント、Bob Moffettは指摘します。「使用される成型機器には、Krytox™(クライトックス™)を使用できます。熱に耐えて金型から部品を離すのに必要な潤滑剤となるからです」
将来的には、Krytox™(クライトックス™)が航空機のさらなる燃費向上に貢献するとJohnstonは考えています。「想定しているのは、小型化なのによりパワフルなエンジンに変更する設計です」と話します。「これまでにも、従来のエンジンオイルをKrytox™(クライトックス™)のパーフルオロポリエーテル(Perfluoropolyether:PFPE)タイプのオイルに置き換えて、エンジンがより高温で稼働できるようにしたことがあります」
Bob Moffett
シニアテクノロジーコンサルタント
空の旅の安全性は、化学によって確実に向上しています。
フライト前には、客室乗務員が乗客に非常口を案内したり、座席を浮揚装置として利用する方法を教えたりします。一方で、化学は、誰もそうした緊急措置を取る必要がないように、舞台裏で活躍しています。
Anton Soudakov
Viton™(バイトン™)フロロエラストマーおよびTeflon™ PTFE担当北米製品マネージャー
極端な熱や侵食性のある燃料に強い耐性を持つViton™(バイトン™)は、燃料漏れからエンジンの故障まで、あらゆる問題を軽減します。
乱気流や山の接近などを警告する目立つ安全ネットワークはもちろんのこと、航空機のあまり知られていないシステムでも、化学は裏方として機能しています。エンジン本体の奥深くでは、シールやOリングにViton™(バイトン™)フロロエラストマーが使われています。Chemours(ケマーズ)の北米製品マネージャーであるAnton Soudakovによると、極端な熱や侵食性のある燃料に強い耐性を持つViton™(バイトン™)は、燃料漏れからエンジンの故障まで、あらゆる問題を軽減します。
酸素マスクがおりてきたときに流れ込む緊急用酸素も、そのシステムにKrytox™(クライトックス™)を使用しており、酸素を安全に供給します。従来の潤滑剤は液体酸素や気体酸素に直接触れると燃え上がることがありましたが、Krytox™(クライトックス™)はそんなことはありません。Moffettは、「空の旅の安全性は、化学によって確実に向上しています」と話しています。
人が作ったシリンダーで雲の上を飛ぶことに対する驚嘆の念も、結局は薄れるものです。飛行機が巡航高度に達すると、意識するのは快適性です。エンジン音はうるさくないか。空気が淀んでいる感じはしないか。映画のセレクションは充実しているか。確かに、空の旅を楽しめるのは、快適だからこそです。
「車では、ノイズ・振動・不快さ(Noise, Vibration, Harshness:NVH)と呼ばれる問題に対処するためにKrytox™(クライトックス™)を使用しています」とJohnstonは言います。これは、進歩がもたらした意図せぬ結果の1つです。車は以前よりも静かになっています。防音材や空力性能の向上により、エンジンの排気音や吸気音は小さくなりました。結果として、外装や内装から発生する小さな軋みやラトル音(ガタつき)が気になるようになっています。「飛行機も同じようなものです」とJohnstonは言います。
エンジニアは空気の質も重視しています。Johnstonによると、「新世代の航空機は、エンジン抽気をなくしています」。従来の飛行機はエンジンから圧縮空気を送り込んでいましたが、最近のジェット機は別の方法をとっています。現在の航空機は、空気の質を向上させるために独立したコンプレッサーシステムを使用しています。さらに、前述の複合シェルのおかげで、飛行機がより多くの湿気を空気中に取り込めるようになり、乾燥しにくいフライトを実現しているのです。
Steve Johnston
テクニカルサービスエンジニア
新素材は、メンテナンス頻度が少なくて済みます。そのため、飛行機の稼働時間が長くなり、経営者の利益につながります。
最後に、機内でのエンターテインメントです。ロサンゼルスとシドニーの間で時間をつぶそうと考えて、最初に思いつくのは化学ではないかもしれません。しかし、飛行機の液晶画面に映画が映し出されるのは、デジタルシステムのおかげです。そして、そのデジタルシステムが機能するのは、Teflon™(テフロン™)を用いて製造した半導体があるからです(このフロロプロダクツは、チップメーカーが製造時の汚染を減らすことで高い歩留まり率を達成するのに役立ちます)。
極めて安全なフライトで乗客が快適に映画を楽しむことができるという事実は、1900年にライト兄弟が必要最小限の機能で有人飛行のテストをして以降、空の旅がどれだけ進歩したかを教えてくれます。
1出典:“The 787 Family: A Benchmark in Fuel Efficiency(787系:燃費向上のベンチマーク)”。ボーイング。www.boeing.com/commercial/787/by-design/#/benchmark-fuel-efficiency。
2出典:McIntosh, Andrew. “18 Billion Pounds of Fuel Saved: Boeing Releases New Dreamliner Data(816万トンの燃料を節約:ボーイング、ドリームライナーの新データを発表)”。The Business Journals、2017年10月3日付。www.bizjournals.com/seattle/news/2017/10/03/18-billion-pounds-of-fuel-saved-boeing-releases.html。
3出典:“What Makes the Boeing 787 Dreamliner So Fuel Efficient?(ボーイング787ドリームライナーの燃費が良い理由)” AirlineGeeks.com、2018年1月29日付。www.youtube.com/watch?v=YSeRoCpu4eE。
4出典:Paur, Jason. “Boeing's 787 Is as Innovative Inside as Outside(外見だけでなく中身も革新的なボーイングの787型機)”。WIRED、Conde Nast、2009年12月24日付。www.wired.com/2009/12/boeing-787-dreamliner-interior/。